稲盛和夫氏といえば、京セラ、KDDIを成功させ、2010年、78歳にして日本航空の再建を引き受け、会社更生法の適用から2年で営業利益2000億円というV字回復を成し遂げた「名経営者」と呼ばれる人物の一人です。
今回は、稲盛氏が「これらを徹底して実践することでしか企業経営はうまくいかない」と公言する、社員のやる気に火を付ける7つのカギをご紹介いたします!
※本記事は、二〇一四年二月に日本経済新聞出版社者から刊行された『従業員をやる気にさせる7つのカギ』を改題、改訂したものです。
目次
なんのために社員をやる気にさせるのか
人を生かすことがお互いの幸福につながる
稲盛氏は、著書で「社員のやる気を引き出すこと」について、このように語っています。
バブル崩壊後、日本経済は長期にわたり低迷を続けていますが、それは、日本に技術や資金が不足しているからではありません。日本には優秀で勤勉な人材が多く、企業は優れた技術力を有していますが、残念なことに、リーダーがその持てる力を十分に引き出せていないのです。つまり、組織を正しい方向に導き、社員に自分と同じ気持ちになって働いてもらうというリーダーシップが不足しているのです。
稲盛氏は、日本航空グループ(JAL)の再建を委託されたとき、経営理念を作成することから始めたといいます。
その理由は、リーダーは、使命をもって組織を導く必要があるからです。
たしかに、「これを実現するためにあなたの力が必要なんだ」というものがなければ、多くの人は協力したいと思いませんよね。
心を一つにすることの偉大さ
「全社員の物心両面の幸福を追求すること」をミッションとした後、「JALフィロソフィー」(全社員共通の行動指針)を幹部社員とともに作成し、あらゆる機会を通して全社員と思いを共有したといいます。
その結果、社員が自分たちの手で会社を再建していこうと自発的に行動するようになったそうです。
すると、従来の日本航空に蔓延していたトップダウン方式の体質は改善され、マニュアル主義と言われていたサービスも一変。
全社員が経営者意識をもって経営に参加する会社に変わったといいます。
多くの方が知るとおり、その後JALは奇跡のようにV字回復し、再上場を果たしました。
稲盛氏は、「人に協力してもらい、同じビジョンに向かうことの重要性」を「経営の原点」であると言っています。
稲盛和夫(いなもり かずお、1932年1月21日 – )・・・
日本の実業家。京セラ・第二電電(現・KDDI)創業者。公益財団法人 稲盛財団理事長。日本航空名誉会長。若手の経営者が集まる経営塾「盛和塾」の塾長として、後進の育成に心血を注ぐ。主な著書に『アメーバ経営』(日本経済新聞出版社者)、『生き方』(サンマーク出版)、『働き方』(三笠書房)などがある。
社員をやる気にさせる7つのカギ
社員をパートナーとして迎え入れる
社員と会社との間に結ばれる契約それ自体は、雇用契約に基づいたドライな労使関係でしかありません。
「月々いくらの給料を出します」といった条件が提示され、社員はその条件のもとで自らの労働力を提供することに同意する。
これでだけは、事業は拡大しないと稲盛氏は述べます。
大切なのは、自分と一心同体になって仕事をしてくれる「パートナー」として、また、経営の責任を負う共同経営者として社員を迎え入れること。
そして、日々「あなたを頼りにしていますよ」という言葉をかけたり、そうした姿勢で接したりすることが重要です。(『従業員をやる気にさせる7つのカギ』p12)
単なる労使関係ではなく、ともに人生を歩む仲間であるという思いが伝わったとき、社員の目は変わるといいます。
社員に心底惚れてもらう
稲盛氏は、KDDIが五周年を迎えたころ、京セラ創業時からともに働いてくれていた社員にこんなことを言われたそうです。
たしかに(零細企業だったころの京セラに入った当時は)、将来に不安もありました。
しかし、稲盛さんにお目にかかり、この人だったらついていこうと思いました。
わたしは今六十五歳になりましたが悠々自適で、家内も子どもたちも幸せに暮らしています。
稲盛さんに出会えたことが、今日をつくったのです。
社長や上司、リーダーの役割を担うあなたに惚れ込み、どこまでもついてきてくれる人たちをつくること。
これは、難しいようで簡単であると稲盛氏はいいます。その秘訣はこうです。
簡単なことです。己ばかりを愛していては、誰も惚れてくれません。
まず、従業員(社員)のことを考えるのです。そうしてあげるから、皆、惚れ込んでくれるのです。(p17)
仕事の意義を説く
京セラは、ファインセラミック業界のトップ企業として注目を浴びるようになってからも、その製造工場では、過酷な労働環境であったといいます。
いわゆる「3K」(きつい、汚い、危険)職場で、創業メンバーですら、それが意義のある仕事とは思っていませんでした。
そこで稲盛氏は、彼らの仕事に対する意欲を高めるため、仕事が終わった後に毎晩仕事の意義を説いていったそうです。
それは、こんな言葉であったといいます。
今皆さんが取り組んでいるテーマは、世界中でも一、二社しか取り組んでいない最先端の研究開発です。
これが成功すれば、様々な製品に使われ、人々の暮らしに大いに貢献することができることになります。
そんな社会的に意義のある研究開発が成功するかしないかは、皆さんの日頃の働きで決まるのです。
この姿勢が功を奏し、社員は意義をもって、より真剣に仕事に取り組むようになったといいます。
ビジョンを高く掲げる
ビジョンを語るとは、夢を語ることと同義です。
稲盛氏は、京セラの売り上げが年間一億円もなく、まだ中小零細企業だったころから、自分たちの取り組みや製品が、具体的にどこに向かっているのかを語り続けました。
自分たちのつくるファインセラミックスが世界のエレクトロニクス産業発展に欠かせない素材であること。
そして、京セラが町内一、京都一、日本一、世界一の企業になることを説き続けました。
すると、半信半疑だった社員も、いつしかその夢を信じるようになったそうです。
今や京セラは、ファインセラミックスの分野で先行する巨大企業を凌駕し、世界一の企業へと成長するとともに、多くの事業を展開し、売り上げが1兆5000億円を超えるまでに大きくなりました。
ミッションを確立する
同氏は京セラを創業する際、「稲盛和夫の技術を世に広めること」を創業の目的としていました。
しかし、事業は思うようにうまくいかず、一部の社員からは「昇給してくれ」「ボーナスはどうしてくれる」というように、待遇の保証を求められることもあったといいます。
稲盛氏は、このことについてよくよく考えた結果、「社員の生活を守ること」が会社を大きくする上で重要であることを悟りました。
そして、公器としての企業の責任を果たすために、社会的意義を説くための一項を加え、このような理念を掲げました。
全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること。
技術者としての個人の理想を傍に置き、このように理念を掲げたことで、社員のモチベーションは大きく向上するに至ったそうです。
フィロソフィを語り続ける
人の心を動かすには、自らのフィロソフィ(哲学、考え方)を語ることが非常に重要であるといいます。
「わたしは人生をこのように捉え、こういう風に生きて生きたいと思っている。」
「あなたは、人は何のために生き、何のために働くと思うか。」
ミッションを語るだけでなく、それらを支える自分自身としての考え方も語る。
そうすることで、人の心は動き、この人と一緒に仕事をしたいと思ってもらえるといいます。
稲盛氏は、「フィロソフィを社内で共有している度合いは、企業業績に正比例している」と公言しています。
自らの心を高める
企業が発展してゆくには、経営者をはじめ、リーダーやマネージャーの「器の大きさ」が関わるといいます。
「器」とは、「心の大きさ」と言い換えても構いません。それは、このような理由です。
大きなビジョンを叶えるには、必ずそれに力を貸してくれる仲間が必要です。
だからこそ、人として良い生き方、良い心の持ち方、考え方、行動が自ずと要となります。
なぜなら、人を大切にしていなかったり、嘘ばかりつくといった不埒な生き方では、仲間の力を借りることが難しくなってしまうからです。
稲盛氏は、これを実践するためには、何も自分で哲学を生み出す必要はないといいます。
(「自分には教養がないから、京セラフィロソフィから抜き出した話をそのまましてもいいか」という問いに対して)
それでも構いません。わたしもかつてはそうでした。
松下幸之助さんから頂戴したもの、安岡正篤さんや中村天風さんから借用したものを使わせていただきました。
最初は借り物でもいいのです。
それらを繰り返し言っているうちに、やがて自分のものにすることができるはずです。
しかし、自分自身の「心を高める」努力を怠ってはいけません。(p36)
まとめ
いかがでしたでしょうか。
稲盛氏の掲げる哲学や思想は、会社の規模に関わらず応用しやすく、また、心に響くものではないでしょうか。
彼によれば、「素晴らしいビジョンを共有し、こう在りたいと組織のメンバーが強く思えば、どんな障害も乗り越えられるパワーが実際に生まれる」といいます。
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