近年、あちらこちらで「働き方」を改革することが叫ばれています。
例えば、「働き方改革」を中心として、「残業時間をゼロにしよう」「労働時間をできる限り短くしよう」と、働き方を変えることに多くの会社が取り組むようになりました。
また、大手企業が社員を過労死させてしまったことがニュースになったことを皮切りに、過度な長時間労働は死につながるということを多くの人が認識するようになりました。
しかし、そういった問題は「働き方」を変えるだけで、本当に解決するのでしょうか。
わたしたちの働き方が問われる時代となった今だからこそ、「なぜわたしたちは働くのか」、「なんのために会社は存在するのか」という根本部分を見つめ直さないといけない。
日本だけでなく、世界中で、そう声をあげる企業も増えてきたといいます。
今回は、「パーパス(purpose)」という概念をご紹介したいと思います。
会社や組織には、目指す方向性を示すものとして「経営理念」や「社是」、「ミッション」や「ビジョン」などが掲げられますが、そういった概念とはどう違うのか、なぜそれが重要視されているのかということをわかりやすくご説明いたします。
なお、『社員の幸福度をあげる「パーパス経営」を社員教育に活かすための3つの方法』という記事では、具体的に社内にパーパス経営を活かす方法をご紹介していますので、こちらもご覧ください。
目次
「パーパス」とは何か
「パーパス」の意味
パーパス(purpose)とは「前に」(pur)、「置く」(pose)ことが語源とされていて、前進する先の目的を定義するものです。
日本語で、「目的」や「存在意義」と訳されます。
第一線でパーパス経営を実践する、アイディール・リーダーズ株式会社によると、パーパスとは以下のように定義されています。
Purpose(パーパス)とは、自分たちの存在意義のことです。
「この組織は何のために存在しているか?」という問いに答えるというシンプルなものです。
つまり、パーパスとは「個々人が存在の意義を見いだすこと」であるといえるでしょう。
その目的は、多様な働き方を可能とすることで、誰もが幸せに働ける社会を実現することであることは多くの人が求める社会像の一つであると思います。
また、パーパスの視点を取り入れた経営は「パーパス経営(Purpose Management)」と呼ばれています。
「パーパス」とは一人ひとりが存在意義を問い直すもの
多くの企業や組織には、経営理念やミッション、ビジョンやバリューなど、方向性を示すステートメントが掲げられています。
それぞれの言葉がもつのは、以下のような意味です。
・経営理念、ミッション…自分たちの組織のあり方
・ビジョン…今後数年間、数十年間の間にどんな会社になりたいか
・社是、バリュー…自分たちが何を大事にして行動するのか
これらに共通するのは、「会社」が社会に与えるインパクトを下敷きに思考されているということです。
こういったステートメントは、メンバーを統制し、同じ方向性に向かわせるツールとしては便利かもしれませんが、それと同時に、組織のメンバーが「会社の想い」を「自分ごと」として受け入れづらいという欠点も存在します。
例えば、ミッションステートメントに掲げられたミッションは、「会社の理念」を高く掲げるものであり、社会からの共感・リスペクトを得るには有効ですが、そこで働く人々にとっては、どこか「他人ごと」のように感じられてしまい、せっかくの理念が社員一人ひとりの行動に反映されていないことが多いといえるでしょう。
いくら綺麗な言葉でビジョンを語っても、メンバーのものとなって実際生かされていなければ、それはただの言葉になってしまいます。
したがって、「パーパス」とは、自分たちの為すこと、語ること、作るもの、その全てを包括した在り方が社会と繋がっていることを一人ひとりが認識するための概念であるということがいえます。
パーパスの視点を取り入れることで生まれる効果
パーパスとは、「個々人が存在の意義を見いだすこと」であると前述しました。
面白法人カヤックのCEOである柳澤大輔氏は、「仕事を楽しく、幸せにするには働くことを “自分ごと” として捉えることである」といいます。
ただの言葉としてではなく、生きたパーパス(存在意義)があることにより、組織においては一貫性のある構想が描かれ、そこに一体感が生まれます。
また、そのパーパスを共有するメンバー、社員が高いモチベーションでその能力や才能、創造性を発揮し合うことにより、より大きな価値が生まれることにも繋がるでしょう。
さらに、パーパスが社会と密接に繋がったものであれば、それは自分たちの幸せで完結することなく、そこから生まれた商品・サービスが顧客の共感や支持を生むだけでなく、それが売上利益となり、企業の持続的な繁栄をもたらすことに繋がります。
パーパス経営を実践する企業
ネスレ日本株式会社
ネスレは、創業百五〇年に当たる二〇一六年に「生活の質を高め、さらに健康な未来づくりに貢献します」というパーパスを定義しました。
それまでも、ビジョンを掲げてはいたものの、それは誰もが自分の問題として理解できる表現とはいえなかったそうです。
代表取締役を務める高岡浩三氏はあるインタビューでこのように発言されています。
よりよい報酬を求めるのは自然な感情ですが、働くということの原点に立ち戻れば、より大事なのは精神的なつながりであり、それを構築するには、会社が進むべき未来の方向性と、従業員が成し遂げたいことが合致しなければなりません。・・・
・・・私はネスレという企業を尊敬していますが、ネスレに雇ってもらっているのではなく、ここでの仕事に自分の人生を賭けるべきなのかと、ネスレを試しているという気持ちを持ち続けています。
また、パーパスは、人を採用する際、新規事業を立ち上げる際など、あらゆる事業活動に置いて重要な基準となるといいます。
例えば、パーパスを元にネスレ日本は二〇一七年から「ネスカフェ コネクト」というサービスを始めました。これは、ネスレのコーヒーマシン「バリスタ i[アイ]」と専用タブレットを自宅にセットすることで、タブレットの画面に話しかけるだけでコーヒーを入れることができたり、離れて暮らす家族とLINEを通してメッセージの送受信ができたりします。スマートフォンを扱えなかった高齢者の方も、これがあればスマホを使わずに子どもや孫と画面上で話すことができます。(画像)
新規事業に携わる社員がパーパスを基盤に、自分ごととして社会の問題を捉えたときに初めて、ネスレのコーヒーマシンを通じて高齢者の孤立や孤独という問題を解決するという発想が生まれます。
Facebook社
パーパスについて、Facebookの創業者であるマーク・ザッカーバーグ氏はこのようにコメントしています。
「Purpose is that feeling that you are a part of something bigger than yourself, that you are needed, that you have something better ahead to work for. Purpose is what creates true happiness.」
「パーパスとは、自分が小さな自分以上の何かの一部だと感じられる感覚のことであり、お互いが支え合い、働くことで自分の喜びとなる何かがあるということです。つまりパーパスとは、真の幸せを生み出すものなのです。」
これも、前述したパーパスの定義に大きく通づる部分があります。
Facebook社は、そのホームページにて、「Facebookを形作っているのはハッカーカルチャーであることを公言しています。
ハッカーカルチャーとは、クリエイティブな問題解決と素早い意志決定に報いる環境であり、この文化によって、従業員は自分が最も重要と考える問題を中心に行動し、解決していくことができるといいます。
また、Facebookのハッカーカルチャーを象徴するのが、「ハッカソン」でしょう。
年に一度、数百名の従業員が一堂に会し、プログラミングを徹夜で行うというなんともユニークなイベントです。
もちろん、ただプログラミングを行うだけではなく、起業家とプログラマーとデザイナーが1組になり、24~48時間の間に新しいプロダクトまたはサービスを考えるというコンセプトがあります。(画像は上場記念ハッカソンの様子)
そこで生まれたアイデアの約六割が、実際のプロジェクトとして実行されるといいます。
誰もが知る、あの「いいね!」ボタンも、このハッカソンから生まれたそうです。
パーパスを楽しく実行できる環境があるからこそ、Facebook社は世界最高峰のサービスを提供し続けられるのかもしれません。
ナイキ社
アメリカンフットボールの米国人スター選手であるコリン・キャパニック選手は、2016年、アフリカ系米国人に対する警察の暴力に抗議し、国歌斉唱中に起立を拒否しました。
ナイキ社はキャパニック選手の信念と、自社が彼の起用によって生まれるスポンサーからの評価のリスクを重ね合わせ、「Believe in something, even if it means sacrificing everything.(信念を貫け。そのためにすべてを犠牲にするとしても。)」というインパクトのあるコピーを打ち出しました。
この広告をきっかけとして、キャパニック選手の国家斉唱拒否に反対する年配者による反発や不買運動が発生したそうですが、ナイキのスポーツシューズのファン世代からは、熱狂的な支持を得ることに成功しました。まさに、パーパスとブランドの活動との整合性を見事に実現した事例だといえるでしょう。
ストラテジック・ファクターズのグラハム・ケニー氏は、「パーパスと自分たちの活動に一貫性をもたなければ、パーパスを掲げる意味がない」といいます。
広告や事業など外部に向けたものだけでなく、幹部の報酬、従業員の賃金と労働条件が公正であるかなど、内部の在り方も見つめ直さずして、消費者の信頼は得られません。
パーパスと会社を存続させるための利益ををトレードオフの関係で考えてしまうと、必ずどちらかが優先されてしまいますが、2つを相互補完関係で考えれば、持続可能な成長の可能性が見えてくるでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
この記事をきっかけに、売上や収益とあわせて、社員の幸福度をあげるエッセンスとして、「パーパス」を取り入れていただけるとこれほど嬉しいことはありません。
もし、社員研修の実施についてお悩みのことがありましたら、新入社員研修を専門とする私共に、お気軽にご相談ください。